- MBA留学でコストに見合ったリターンが得られるか?
- 海外MBA卒は役に立たない!
- そもそも日本で働く場合は海外MBAは意味がないのでは?
英国MBAを取得して現在は日本在住の筆者ですが、こうした執筆活動をしていると他の方のコラム等を目にする機会も多く、その中で「MBA留学に意味はあるのか?」といったトピックを目にすることが少なくありません。
確かに、費用感としては1年制プログラムで比較的安価と言われる欧州MBAでも、準備費用やその他諸々含めるとざっくり1,000万~です。社費留学でない限り留学中は収入が途絶えるため、その損失も含めると非常に大きな投資です。
「そんな大金払って取得する意味あるの?」ってことですよね。
この記事では、よく耳にする意見に答えつつ、筆者の現時点の本音をお話したいと思います。
帰国してもうすぐ1年が経ちます。現時点の率直な思いをまとめました。
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何のためにMBA留学が必要なのか?
さて、そもそもなんですが、「意味がない」というのはどんな状態でしょうか?
それは、「ある目的があって⇒MBA留学によってそれが実現できない時の状態」ですよね。例えば、弁護士を目指している人がいて、その夢を叶えるためにMBA留学に行くと言い出したら「それ意味あるの?」と筆者も思います。
そんな人はいないと思いますけど…^^;
では、既に弁護士資格を取得して活躍している人が「他の弁護士との差別化を図りたい」とか、「顧問先グローバル企業の経営者との共通言語を得たい」といった目的でMBA留学をするなら、どうでしょうか。
そんな時間があるなら弁護士として経験を積むべき!時間の無駄だ!MBAをとっても弁護士としての収入は変わらないんだから意味がない!と思いますか?
巷の「MBA留学って意味あるの論争」というのは、こういう類の議論のように思うんですよね。実際、筆者のMBAの同期にも企業法務で活躍する弁護士はいましたし、彼からすると、企業法務と経営は密接に結びついていて、経営の共通言語を持つことはより深く自身の仕事を理解することに繋がると話していました。
これを単に「収入アップに繋がらないから意味がない」と切り捨てるのは違いますよね。彼の目的は修了直後の収入アップとは別のところにあるわけです。
MBA留学というと、どうしても「収入アップ」「キャリアアップ」が第一に来てしまって、それ以外を寄せ付けない雰囲気があります。付け加えると、「短期的な結果」に囚われ過ぎている感も否めません。
企業法務の彼で言うと、修了後は英語圏での就職の可能性も広がるでしょうし、経営陣との距離が近づくことで将来法曹界で予期せぬ不況が訪れても職を失うリスクが下がるかもしれません。1つ新たな武器を手に入れることで、長い目で見ると生涯年収は高くなると思いますが、そこはあまりクローズアップされません。MBAの世界ランキングも修了直後の収入増加率が順位に直結することを考えると、MBAという世界がそういった価値観なのは認めざるを得ませんが。
自身の中に「MBA留学をする目的」が明確にあって、その目的に妥当性があり、その目的が達成できるならそれが正解ではないでしょうか。コストパフォーマンスという観点も、何に価値を置くかで評価は変わるので一概に言えるものでもありません。
MBAは入学審査の際に「プログラム参加の目的」を繰り返し問われます。何かしら解決したい課題を持ってMBAに参加するわけですが、それが解決できれば大成功なんじゃないでしょうか。仕事上の課題から人生の課題まで様々です。働きすぎて働く意味さえ分からなくなり、キャリアブレイクに来ている人もいました。ビジネスを学びながら人生を見つめ直すというのは、とても贅沢な時間ですね。
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自己満足ではいけない理由
1,000万もかけて自己満足かと思うかもしれませんが、趣味の車に1,000万かけて他人が文句を言うことはないのに、なぜMBA留学だとこうした議論が起きるのでしょうか。
ちょっと考えてみましょう。
MBAディレクターからの問いかけ「会社が存在する目的」
MBAプログラムの初日にコースディレクターがMBA生に対してこう問いかけました。
「会社が存在する目的は何だと思うか」
- クルマを通じて世界中の人に喜びを?(自動車業界)
- 世界の絆を強めるため?(SNS業界)
- 持続可能な社会に貢献する?(エネルギー業界)
これから始まるMBAというアドベンチャーに胸を膨らませ、それぞれの立場で色々な意見が飛び交いました。一通り学生達に意見交換をさせた後、ディレクターが一言。
「利益を生み出すことです」
マネジメントの父と言われる経営学者ピーター・ドラッガーが「利益を目的とするのは間違いであるだけでなく的外れである」(参考:現代の経営 P・F・ドラッガー著 上田惇生訳)とまで言っている中で賛否の分かれる発言ではありますが、初日でどこかソワソワしていた教室の雰囲気がストンと落ち着きました。
利益至上主義では健全な企業活動に支障をきたすという側面はあるものの、理想だけでは企業経営は成り立たず、社会貢献は健全な利益追求の上に成り立つものであるという前提条件を再確認する問いかけでした。
そのためのアレコレを学びにMBAに来ているわけです。
MBAと経済的利益=リターンは切り離せない
経営のベースは「利益」つまり「リターン」なんですね。
これなくしては価値を生み出せないわけです。
どれだけ立派な理念があっても利益を上げられない企業は存続できません。なので、MBA生はリターンを継続して得られる組織作りについて様々な角度から考えます。
さて、何が言いたいかと言うと、日本人でMBAを検討するような人達というのは基本的にこういった思考が既に身に付いています。つまり、MBA留学を考える際に、必ず「MBA留学のリターン=金銭的利益」という経済的な側面を検討します。
MBAという選択に「経済的な合理性」があるかないかという点ですね。
特に既に十分な高収入を得ている人だったりすると、MBA留学という投資に対するリターンが見えにくく、むしろ留学中にそのポジションを手放すリスクの方が高いという見方もあり「意味がない」といった意見に繋がるのかなと思います。
常に経済的な側面を考えるのがMBAですからね。
しかし、これも先ほどの話に戻りますが、MBA留学のリターンは短期的な金銭的利益だけとは限りません。
高収入の会社で労働者として働き続けるよりも、将来自分の城(会社)を持って生計を立てるための投資が海外MBAなのかもしれません。この場合、勿論リスクもありますが、そのリスクを下げるためのMBA留学とも考えられます。
もちろん金銭的なことは非常に重要です。ただし、それだけでもありません。
経済的側面と価値観の交わった範囲に海外MBAが選択肢として存在するなら、それがその人にとっての正解なのではないでしょうか。
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海外MBAは日本企業の風土に合わない?
次に、そもそもMBAという学位自体が「日本企業の風土に合わないから意味がない」といった意見です。
こちらの記事でお話している通り、MBAというのはビジネスリーダーを育成するための米国発祥の教育プログラムで、理論をベースに実践を織り交ぜたプログラムが主流です。
この理論というのが経営の共通言語になるのですが、理論やフレームワークをベースに議論を展開するという手法が日本企業のマネージャー層では一般的なものではないため、そもそも共通言語にならないといった側面はあると思います。
企業によりけりですけどね。ある程度の会社であれば、管理職クラスはMBAで学ぶ基本的な経営理論くらいは知識として持っています。MBA本や経営系の書籍も、いつも売れ筋に並んでいますよね。
また、年功序列と現場至上主義が掛け合わさった風土を持つ日本企業では、MBAを取得して帰国する年齢層でその知識と経験を活かして活躍できる場がないというのも現実としてあります。
この視点に関しては、またまた最初の話に戻りますが「留学の目的は何か?」ですよね。海外MBAを取得すると、選択肢がいわゆる「日本企業」だけではなくなるのと、学んだマネジメントスキルを活かす場所を探すようになるはずです。
そもそも日本企業で、且つ実務や担当者レベルに戻ることを「目的」にMBA留学をする人っていないと思うんですよね。
そう考えると、この議論が起きるのは、以下の2パターンでしょうか。
- 企業派遣で海外MBAに行かせるパターン
- 海外MBAという肩書だけで企業が採用しちゃうパターン
1つ目の企業派遣は、MBAを修了して帰国した社員との意思疎通がうまくいかず「海外MBAは日本には合わない!」となっているパターンです。
正直な話、これって受け入れる現場の度量の問題ですよね…。
新しい手法や理論ベースの戦略立案に対する柔軟性があるかどうかです。これまでのやり方を変える気がなく、且つ海外MBAホルダーにこれまで以上の活躍を期待するというのは、なかなか酷な話です。
2つ目の肩書だけで期待してしまうパターンも困りますね。
「海外MBA卒だから優秀なはず」とマネジメントとは全く関係のない部署で採用されるケースって結構あります。例えば、営業部署に配属されて結果が伴わず「海外MBAって使えない」「やはり日本では生え抜きの社員の方が結果を出すぞ」となっているパターンです。
これはもう採用する側の問題です…。そもそもMBAは実務の万能プレーヤーになるための学位ではありません。。。
海外MBAが日本の企業風土に合わないというより、そもそも海外MBAという学位に対する理解が足りていないことによる認識のズレという気がします。
日本で働くのに海外MBA?
「日本で働くのに海外MBAを取得する意味があるのか?」というのもよく挙がる質問ですが、これに関しては全く逆です。日本だからこそ海外MBAが評価されるというのは、実際あります。単に希少性からです。
ヨーロッパにいて、第二外国語として英語が使えるだけで評価されることはほぼないですが、日本にいると能力に関係なく「英語が出来る」というだけで評価されたりしますよね。今や英語が話せることは特別なことではないですが、それでもまだまだ日本人は英語が苦手です。
それと同じで、海外MBA卒が以前ほど珍しいものではなくなりつつも、まだまだ希少です。
先程の「海外MBAという肩書だけで採用しちゃうパターン」でもありましたが、国内の転職市場において海外MBA卒はアドバンテージになります。MBAで得た知見を活かすということ以前に、転職の選択肢は間違いなく増えるのではないでしょうか。
海外MBA留学の内訳をみると約半数が企業派遣です。つまり、帰国後に転職市場に現れることなく元の職場に復帰します。私費留学の場合、そのまま海外就職というパターンも多いので、それもあって日本の転職市場にいる海外MBAホルダーというとやはり数は多くありません。
欧米ではマネージャークラスはMBAを持っていて当たり前のような雰囲気があるので、もちろん学位の有無は評価の1つではありますが、それよりも能力や実績といった点が問われます。
一方で、日本の転職市場では、仮に実績が足りていなくても、海外MBAという学位が多少補完できるイメージです。それだけ、グローバルな環境でビジネスを学んだ経験を持つ人材が少ないのです。受ける会社のレベルが高くなればなるほどこの補正は弱くなりますが、確実にあります。
希少なものは値段が上がりますよね。それと同じ原理です。
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MBA留学で得られたもの
さて、現時点で筆者はMBA留学を通して1,000万では安すぎる程の経験をしたと思っています。
理由をまとめると…
- あらゆることに恐怖心や偏見がなくなった
- 主要各国の課題への取り組み方を肌で体感できた
- 主戦場が日本だけではなくなった(世界が広がった)
- 英語アレルギーがなくなった
- アクセスできる情報量が各段にアップした
- 心の支えとなる友人ができた
- 可能性のリミットが取れた
人生観や仕事観
MBA留学という経験を通して、自分の中での「未知のもの」が「身近なもの」に変わったことで人生観が変わりました。人は「知らないもの」や「遠いもの」に対して恐怖心を抱いたり、逆に過剰に評価したりするものだと思うんです。
例えば、日本から出たことがない人は「海外は危険な所だ」と思っています。間違ってはいませんが、海外と言っても日本より安全だと言われる国も多くあります。
日本でも凶悪犯罪が起きないわけではありませんよね。
でも、「未知のもの」はなんとなく怖いのです。
遠いものを過剰に評価するという点については、例えばビジネスの場で、米国から来るゲストに対して訳もなく無意識に「すごい人」だと感じてしまったりしませんか。
すごい人なのかもしれませんが、実際分かりません。分かっているのは単に「米国から来た人」ということだけです。
MBA留学では世界各国から集まるメンバー達と深い議論をすることになります。ビジネスについても宗教や価値観についてもです。未知だったものがどんどん身近なものになっていき、恐怖心や偏見がなくなっていきます。フラットになります。
これって正にプライスレスな経験でした。
未知なものを恐れることに関連して、米国や中国、欧州諸国の課題への取り組み方を体感したことで、自分に自信もつきました。日本流は優れているなと思う機会が少なくなかったからです。もちろん、真似できないようなスマートな方法に打ちのめされて刺激を受けることも多かったのですが。
筆者のMBA留学の目的の一つに、「それまでのキャリアで自分がやってきたことのレベル検証」があったのですが、上司や関係者から学んだことは世界と比較しても遜色ないのだと体感できたことは自分の中で非常に大きかったです。
MBA留学を決めた理由はこちらの記事で書いています↓
英語力
筆者にとってMBA留学というのは人生の1つのモチベーションだったので、その大義名分があってはじめて成し遂げられたことも多いです。英語もその1つですね。
MBA取得という目標があったからこそ、努力し続けられたと思います。
完璧には程遠いですが、英語を単なるコミュニケーションのツールとして使うMBAという場で揉まれたことで、いわゆる英語アレルギーはなくなったと思います。単なるツールだと分かっていても、日本ではどうしても「英語のレベル」について議論されることが多く、一生アレルギーを持ち続けるケースも多いのではないでしょうか。
それが1年足らずで解消できたことは大きいです。
また、MBAでは、授業の予習や論文執筆で膨大な量の英語文書に触れます。英語の文献やソースに抵抗がなくなると、日本語だけの情報がいかに限られたものなのかを痛感するようになります。
得られる情報量が各段にアップします。
心の支えとなる友人との出会い
これぞプライスレス…という感じですね。
MBAプログラムって、基本的にしんどいです。タイムマネジメントスキルやレジリエンスを鍛える場ということで、意図的に物理的にも精神的にもキツいカリキュラムになっています。
レジリエンス(resilience)というのは「回復力」とか「しなやかさ」という意味で、困難な状況下で適応できる能力のことです。
英語にハンデがあってもなくてもキツいカリキュラムなんです。
そんな中で課題をこなしながら、良い時も悪い時も励まし合って一緒に学んだ友人は今もこれからも筆者の心の支えです。どうしてもアイデアが浮かばないレポートに追い詰められて、メンタルどん底になりながら深夜に寮内を一緒に散歩したり…良い思い出です。
生きてきた環境が全く異なることで、逆にお互いを受け入れ合えるのかもしれませんね。
友人達が世界のどこかで頑張っていると思うと、力が湧いてくる気がします。
可能性のリミット(お金・環境)
お金の話にも触れておきましょう。
現時点で筆者の収入面を留学前と比較すると、「微増」という感じです。筆者の場合、就職をしたわけではなく起業という形なので、初年度の現在は正直微妙な状況ですね。
ただ、可能性という意味で、留学前にはなんとなく見えてしまっていたリミットが消えた感覚はあります。
それは収入面でも環境面でもです。
これからは、MBA留学の是非というよりも、自分の中でさらに「MBA留学は必要な選択だった」と思えるように頑張るのみですね^^
MBA留学でメリットを得られにくいケース
さて、筆者のMBA留学の意味についてお伝えしてきました。
これらが「MBA留学でないと得られないのか?」と問われると他にも方法はあるのでしょうが、かなり効率の良いオプションだと思います。但し、留学前と留学後の振り幅によるというのはあるかもしれませんね。
例えば、日本にいながらも半分は海外出張で既に海外を飛び回っているような人だと、筆者の挙げたポイントは既にクリアしているでしょうし、わざわざ費用をかけてMBA留学をせずとも既に同等かそれ以上の経験をしていることになります。
そうなると、メリットは感じにくいかと思います。
MBA留学の特徴の一つとして、一定レベル以上のビジネススクールでは、同級生の質が担保されているという点があります。筆者がこれまでお話した「MBA留学で得られるもの」というのは、このベースの上で成り立っていて、だからこそ効率が良いのですが、この点も上記のようなケースでは既にクリアしているはず。
そういった人がMBAを検討するケースというのは、MBAが昇進の必須条件だったり、特定分野のグローバルな人脈作りだったりするかと思います。MBAでもスクールによって強い分野というのはあるので、特定分野の人脈を広げるための狙いうちはできます。
または、逆に分野を超えたネットワーク形成というのもMBAの醍醐味の1つです。既にビジネスにおける海外経験が豊富な方は、筆者が挙げたようなメリットは感じにくい反面、入学当初から既に素養が身に付いているわけなので、より高いレベルで学びたい分野にアプローチできます。
本来はそうあるべきなのかもしれませんね。MBA過程を修了した現在、最初から今の状態でプログラムに参加できていたら、もっともっと色々と挑戦できたのにと思うことはあります。
同じような条件といっても、実際の仕事で取り組むのとMBAで学ぶのとでは全く環境が異なるので、日々の仕事に忙殺されて学ぶことに時間がとれなくなった時に、MBAを検討するということもあるでしょうね。キャリアのブランクが不利になりがちな日本であっても、MBA留学はキャリアの一部になり得ます。
欧米では「キャリアブレイク」といって、学ぶために一時的にキャリアを中断することはむしろ肯定的に捉えられています。
MBAのディレクターが、「ここでの失敗は損失を生みません。安心して失敗しなさい。こんなに安心安全な場所はありません。」と言っていました。確かに。
最後に
いかがでしたでしょうか。
「MBA留学って意味あるの?」というトピックについて、色々な観点から考えてみました。帰国後1年足らずの現時点の率直な思いなので、これからまた変わっていくかもしれません。
それもまた楽しみです^^
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